11月23日、志賀原発の重大事故を想定した石川県の原子力防災訓練が行なわれました。
志賀町で震度6強の地震が発生して2号機が外部電源を喪失、炉心冷却が不能となり放射性物質が南南東に拡散したという想定の下、住民ら約1700人が参加して実施されました。
私たち原告団は社民党石川県連合や石川県平和運動センターなど4団体とともに監視活動を行ない、終了後抗議声明(下記)を発表しました。
この活動と併行して、同団体のメンバーたちは志賀町や羽咋市、宝達志水町の避難訓練実施地区で住民アンケートを実施しました。
《抗 議 声 明》
本日午前7時から志賀原発の重大事故を想定した石川県原子力防災訓練が実施された。東京電力福島第一原発事故で原発の安全神話が崩壊し、大量の放射性物質が放出される重大事故もありうると国も認める中、「原子力災害の対応体制を検証する」ことが訓練の目的とされる。私たちは毎回監視行動に取り組み、抗議声明を通じて訓練の課題や問題点を指摘してきたが、今回も事故の影響を過小評価し、最悪の事態、不都合な事態を避けるシナリオでの訓練が繰り返された。重大事故が起こっても、あたかも住民が皆安全に避難できるかのような、まやかしの訓練に対して強く抗議し、以下、問題点を指摘する。
1.被ばく前提の避難計画
県の避難計画要綱や関係市町の避難計画の「目的」は「住民等の被ばくをできるだけ低減するため」と記しており、「被ばく回避」の文言はない。避難計画の根拠となっている原子力災害対策指針自体「被ばくをゼロにすることを意図しているものではない」と政府は国会審議の中で明言している。原子力規制委員会は「事前対策のめやす」として、福島原発事故の100分の1の規模となるセシウム放出100TBqに相当する事故に備え、「めやす線量」は、実効線量で100mSvの水準としている。本日の訓練で実施された屋内退避や避難、一時移転によって住民の被ばくは100mSvを下回ったとしても、決して被ばくを回避し、避難できたわけではない。
県や関係市町は避難計画が住民の被ばくを前提としていることを周知しているのか。住民はそれを納得しているのか。そもそも放射線審議会は公衆の被ばく線量限度を1mSv/年とし、原子炉等規制法も原発の設置許可の条件として公衆被ばく限度1mSv/年以下を求めていることを忘れてはならない。災害時を例外とするのは安全規制の骨抜きに他ならない。
2.「震度6強の地震想定」は言葉だけ
2007年の能登半島地震に続き、今年5月には珠洲市でも震度6強の地震が発生している。北陸電力は原子力規制委員会の審査会合で、志賀原発の周辺でいくつもの巨大な活断層が存在することを明らかにしており、「震度6強の地震発生」は決して過大な想定ではない。しかし訓練では志賀原発敷地外への影響は1か所の道路の寸断のみであり、明らかに地震被害を過小評価している。実際には多くの家屋が倒壊し、下敷きになった住民もいるかもしれない。死傷者も複数発生し、火災発生もありうる。道路の損壊も広範囲に、複数個所に及ぶ。津波被害も発生しているかもしれない。県や志賀町、あるいは周辺市町は地震の災害対策本部を設置しているはずである。消防や警察はこうした事態への対応で奔走している。こうした中での複合災害発生である。原子力災害への対応がどこまで可能か、真剣に検証すべきである。
3.服用のタイミングを逸するドライブスルー形式の安定ヨウ素剤配布
UPZ圏内の住民へ安定ヨウ素剤配布は容易ではなく、事前配布をするしかないのではないかと私たちは指摘してきた。こうした中、昨年度からドライブスルー形式での配布訓練が実施されているが、3つの問題点を指摘する。1つは服用のタイミングを逸する懸念である。安定ヨウ素剤の服用のタイミングは、放射性ヨウ素を吸入する24時間前から吸入後2時間とされる。ドライブスルー形式は、屋内退避していた住民がOILに基づいた避難指示を受け、避難行動の途上で安定ヨウ素剤を受け取ることとなる。住民は屋内退避の段階ですでに被ばくしており、吸入後2時間内の服用は困難ではないか。2点目は配布場所周辺での渋滞発生の懸念である。特にOIL1の場合は空間線量が500mSv/hを超えており、住民が殺到すると思われる。避難行動は遅れ、無用の被ばくに晒される。3点目は配布作業にあたる防災業務従事者の被ばく問題である。本日の訓練では、配布作業は屋外で実施されている。防護服を着用していても、長時間被ばくのリスクに晒される。
4.形だけの要支援者避難
今回の訓練では、在宅の避難行動要支援者や高齢者施設に加え、障害者就労支援施設や病院でも避難訓練が実施される。きめ細かい災害対応に向けての努力は評価するが、全入所者、全入院患者の避難に向けた課題は多く残されている。原子力災害の特殊性を踏まえた、一人ひとりの個別避難計画を作成し、介護度や障がいの種類、病状に応じた受け入れ先と輸送手段を確保しなければならない。受け入れ先の施設も、原発事故に備えあらかじめベッドを用意し、人員を確保しているわけではない。複数の受け入れ候補施設を確保しておかなければならない。民間団体に輸送の協力を求める場合は、防護基準も明記した協定の締結が必要となる。模擬避難者による避難手順の確認より、個別避難計画の策定状況や見通しこそ明らかにすべきである。
5.軽視される原子力災害の特殊性
私たちは県や周辺各市町と原子力防災について意見交換を重ねている。この中で明らかになった問題点として、行政の防災担当者は概して他の災害との共通点に着目し、原子力災害の特殊性は切り捨てる傾向があることを指摘したい。一例として今回初めて実施されるペット同行避難の受入訓練を取り上げる。避難所でのペットの受入は他の災害でも共通する課題である。しかし原子力災害ではペットの被ばく・汚染、長時間かつ遠距離の避難行動という特殊性がある。避難退域時検査場所での検査こそ実施すべきである。避難バスでの同行も問題が多く、自家用車避難を原則としなければならない。事故発生の通報があった段階で極力屋内に留め、被ばくを回避することも大切である。飼い主に事前に周知すべき事が数多くあるが置き去りにされている。
6.最後に―――原子力防災は住民も地域も守らない
一企業の、電気を生み出す一手段に過ぎない志賀原発のために多くの県民が命や暮らしを脅かされ、財産を奪われ、ふるさとを追われる危険に晒され続けている。このような異常な事態を覆い隠すかのように「重大事故でも無事避難」という防災訓練が繰り返されている。もっとも確実な原子力防災は原発廃炉である。北陸電力は1年前、2026年1月の再稼働想定を公表したが論外である。原子力防災は住民を被ばくから守れない。地域を汚染から守ることもできない。私たちは志賀原発の一日も早い廃炉実現に向けて、引き続き全力で取り組む決意をここに表明する。
2023年11月23日
志賀原発を廃炉に!訴訟原告団
さよなら!志賀原発ネットワーク
石川県平和運動センター
原水爆禁止石川県民会議
社会民主党石川県連合
左は北陸中日新聞(11/24)
右は朝日新聞(同)
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